2014年度 「礼節のルール25」 第16回

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2014年度 「礼節のルール25」 第16回

safe_image第16回は「最高のおもてなしをする」です。

 若葉が美しい季節になりました。GWを目前に心うきうきの方も沢山いらっしゃるのではないでしょうか。前回に続いて、「おもてなし」のお話をしたいと思います。

 この時期になると、新緑とともにいつも私の脳裏に浮かぶひとつの光景があります。それは、すでに30年も前のことですが、父の葬儀の時の出来事です。私の父は薬効の甲斐もなく、3か月という短い患いの末、61歳で亡くなりました。葬儀の当日は、50代で未亡人になってしまった母を慮りながら、胸が押しつぶされそうな思いでいっぱいでした。沢山の参列者にご挨拶をし、いよいよ霊柩車が火葬場に向かって出発する段になって、ふとお寺の門に目を向けると、一人のご婦人が、深々と頭を垂れ、車が出ていくまで拝礼してくださいました。そのご婦人は、母の先輩で、わが家によく出入りしている方でした。いつもは明るく冗談の多い方で、そのお話には笑い転げてしまうほどでしたが、この時は車が見えなくなるまで、頭を下げて見送ってくださいました。火葬場までは40分くらいかかったと思いますが、車が火葬場に到着し、私達が下車する段になると、そこには、先程最後まで見送って下さっていたはずのご婦人が、やはり今度も同じ拝礼の姿で出迎えて下さいました。私は、この姿に驚くと同時に、心の底から感動していました。おそらく、私達が出発した後、クルマを待たせておいて、葬儀の一行が到着するよりも早くその場に到着し、出迎えて下さったのだと、その気遣いに心から感謝しました。このお姿を見つけた時に、このご婦人は、衷心より私達の深い悲しみに寄り添って下さっているのだと感じました。そしてその瞬間は、私達家族にとって、悲しみの中での癒された時間であったことは言うまでもありません。

 私は、この経験を通して、もてなすということは、何も言葉や行為に頼る表面的なことだけではなく、相手の気持ちや立場にたって、人の心にしっかりと寄り添うことができることなのだと考えるようになりました。

 少し前に、ある演者から、スタイリストが付いているとわかるようなコーディネートではなく、さりげないけれどオシャレでその場に合うスタイルを作って欲しいと依頼をされたことがありました。社会的にも硬い話をするので有名な方ですので、あまりオシャレが前に出たスタイルでは都合が悪かったのだと思います。そこで、私は、ご自身が選んだようなものをチョイスし、さりげないスタイルで演者らしいオシャレ心のあるコーディネートを、プロ意識を持って準備させていただきました。これについては、「コレコレ、こういうのをお願いしたかったのですよ。貴方、僕の意図をよく理解してくださいましたね。」と、破顔一笑で喜んでいただきました。

 生きていると、人は様々な場面に出くわします。そんな時々に、出すぎず、下がりすぎず、適度な距離感を持って、相手が何を要求しているのかを察知して心から寄り添うことができる、これこそが最高のおもてなしであると考えています。こんなことが自然にできるようになった時こそが、人生の達人になった時でしょう。

 ところで、前出のご婦人は、さる大臣の秘書を務めていた経験があったそうです。ですから、その場でできる最高のおもてなしのスタイルを体現することができたのでしょう。この方も今はもう亡くなってしまいましたが、やはりそこには、心に寄り添ったおもてなしのスタイルが存在したと、今でも鮮やかに思い出します。

山﨑 佐惠子, AICI FLC